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- 2017/3/3 19:19
- 小説「ふたりでひとつ」#last number①
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五年後。
今でも、あの日の出来事は、怖くて、夢にもうなされるけど、あの歌だけは、どうしても歌いたかった。わたしは21歳になって、ようやくあの歌を歌えるようになって今日、発表会ライブ当日を迎えた。
けっきょく、ゆうべは一睡もできず、歌詞を確認しては、自分が歌っている姿を想像して…そんな繰り返しばかりしていた。
朝の支度をすませて、鏡に向かい、ジュエリーボックスから取り出したハートのネックレスを身につけ、今日は少し気持ちを込めてツインテールを結うと、今度は仏壇に手を合わせる。
「わたし、がんばるからね。あなたに届くように。ちゃんと聴いててね。それじゃ、いってきます」
会場に着くと、大勢の出演者とお客さんで賑わっていた。まだ、出演者が集まるには時間があったので、近くのベンチに座って、歌詞を確認していると…
「やあ、観に来たよ」
顔を上げるとそこに、マサナオくんの姿があった。
「いよいよだね……」
マサナオくんは、わたしの顔を見るなり、すごくびっくりしたように、それでも気を取り直して、
「いよいよだね……和葉ちゃん。がんばって」
「ありがとう。琴葉ちゃんのためにも、一生けんめい歌う。琴葉ちゃんが遺してくれたこの歌を…」
「それにしても、和葉ちゃんがその髪型にしていると、ほんと、琴葉ちゃんに似ていて、驚いたよ」
「当然でしょ。ふたごだもん。それに今日は琴葉ちゃんの名前で、琴葉ちゃんとして歌うから」
「ボクさ、琴葉ちゃんが事故で亡くなったって聞いたとき、もう悲しいとか、悔しいとか、そんな感情もなくなっちゃって、まるで自分の魂までどっか行っちゃって、いっそこのまま、琴葉ちゃんのもとへ逝ってしまいたい…そんなことばかり考えてた」
「本当にごめんなさい。わたしのせいで…」
「もう…そうやって、自分を責めるのやめなって…一番つらかったのは、和葉ちゃんなんだから。それにボク、今は自分が幸せだと思っている」
「え?」
「こうしてさ、また、琴葉ちゃんに逢えるんだもん。琴葉ちゃんのことを好きになって、大好きになって、本当によかったと思ってる」
「ありがとう。慰めてくれて…」
「慰めなんかじゃない。本心だよ」
「わたしも…琴葉ちゃんが好きになった人が、マサナオくんで…よかった」
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