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    • 2011/12/22 23:43
    • 縁なき縁
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    •  あれから随分と落ち着いた。仕事が変わった訳でも、私が変わった訳でもないが、憑き物の落ちたように周りが見えるようになった。
       扉を開けなかった彼を駅のホームで見掛けたのはそんな時だった。疎密のある人群の中にぽっかりと居た。
       彼はやはり部屋ありきである。確かに彼であるのに、部屋の外にいるその人は間違いなく彼ではなかった。それこそ憑き物が落ちたように。
      「こんにちは」
      「あれ、どうも。こんにちは」
      「何だか雰囲気が違ったので迷いましたけど、人違いでなくて良かったです」
      「戻れました?」
      「ええ」
       彼は微笑んだ。人の良い笑顔を思い出したように貼り付けていた。
      「それは良かった。ところで、これは私のルールなのですが、外で会った方には必ず自己紹介をしているのです」
       高木さんがよろしければ、と彼は若鹿巧と書かれた名刺を出した。
      「部屋の外では少し特殊な中学校の教諭をしています。少し意外でしょう?」
       細身で爽やかな風貌は接客業の印象を与えるが、畏まることなく滲み出る品の良さを思い返して教諭というのも得心がいった。
      「きっと貴女に縁はないと思いますが、これはルールなのです。部屋の外の私には必要なのです」
      「でも、こうして縁があった訳ですよね」
      「私はこうして外に居ますが、扉は開けていないのです。部屋の外でもまだ扉の内側に居る。だけど、きっと貴女は扉の内側には縁がない。部屋の私に会ったのだから」
      「どうして」
      「言ったでしょう。あの部屋は、扉の向こう側に戻る為の部屋なんです」
      「よく分からないですね」
      「だから、多分、私はいつか貴女が踏み越えないようにする為に此処で会ったのかなと思うのです。そう感じる時に限って、何も起こらないものですけど」

       それに貴女は運が良さそうだから、と彼は付け加えるとホームに滑り込んできた特急に乗り込んだ。
      「生き急いでいるもので、失礼します」

       それから私は鈍行に乗って、あの部屋の夢を見た。白い部屋だった。

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