アオノマカミさんとモバ友になろう!
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- 2013/3/22 3:57
- 白き彼の物語
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- それは一つの恋だった。彼はいつでも真剣であったが、彼女に対しては並々ならぬ情熱を注いでいた。
その出会いはまるで運命のように、隣の部屋の彼女を警報が誘い出したところで出逢った。結局、火の気はなく何事もなかったが、語らうには十分な時間があった。はじめは何の気なしに語らうた彼であったが、それから偶然が重なり度々会う機会が増えるに連れて想いを募らせていった。
彼女は音楽を生業としていた。ピアノとヴァイオリンを専ら扱ったが、他の楽器も難なく奏でた。白き彼もピアノを弾いたが、格が違うと嘆いていた。
僕と彼の友人は彼女と直接の親交がなかったので、名前ではなく親しみを込めて音成さんと呼んだ。他愛のない冗談である。
二人は端から見ても随分と早く親しくなった。それは彼が相手に入れ込む質の人間で、彼女の趣味嗜好を採り入れていったからだろうと思う。僕には理解し難いことだ。
例えば彼女は漫画も好んだが、読書はしても彼は漫画はまるで読んでこなかった人間だった。興味が湧いたというので僕も幾つか短編を貸して、読んでいるを傍らで眺めていた。あまりにも時間を掛けて読むので途中で眺めるのはやめたが、後で聞いたことには彼は読み方が分からず四苦八苦していたらしい。
僕からすれば彼のそうした恋心の方が分からなかったが、特に語りはしなかった。幾つか漫画を読むコツを教えて、こんなことでも分からないことがあるのかと少し不思議な思いに駆られた。分からないことがあることは分かっていたつもりだった。しかし、それも自惚れと錯覚に過ぎなかった。
今では彼も選り好みはしつつも漫画を読む。ピアノも素人目で見てもその頃よりは上手くなった。
それでもかなわないと笑って彼は語っている。その言葉の真意を僕は知らない。
- それは一つの恋だった。彼はいつでも真剣であったが、彼女に対しては並々ならぬ情熱を注いでいた。