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    • 2014/11/23 22:17
    • 懸想
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    • そんな悲しい顔しないで下さいよ、姉さん。
      抱きしめたくなる衝動を抑えるのにおれは必死になる。
      「また、叱られたっスか?」
      やれやれ、今度は何をしでかして、何を言われたんスか。

      「でもね。私が悪いんだから・・・。」
      いつもより少し目線を上げるように姉さんは顎を上げる。
      「だから、これは罰なの。」
      手伝おうかと水の入った手桶を手に取ろうとしたら姉さんはおれの手を払う。
      その指先にすらおれは触れられない。

      姉さんは気がついていない。
      姉さんは気づいてくれない。

      「慎ちゃん、ありがとう。」
      ああ、姉さんは無理やり笑った顔ですらかわいいっス。
      本当に罪な人ッス。


      「あ、姉さん、肩に髪の毛がついてるっス。」
      細い肩にそっと触れるのはおれの親指と人さし指の爪先だけ。
      本当は指先じゃなく掌で、
      片手だけでなく両手でそして両腕で
      細い肩だけじゃなくその体ごと。
      姉さんを優しく包んであげたいのに。
      こんな顔させないのに。

      「ありがとう。慎ちゃん。」

      涙を見せたら抱きしめる理由が出来るッス。
      だけど、姉さんは強いから泣いてくれない。
      おれの想う通りにはまったくならないっス。

      「じゃあ、姉さん無理しないでくださいッス。」
      「うん。」
      ああ、見てられないッス。
      気付かぬ思いに気づいた事で。
      一歩下がり、二歩下がり・・・
      でも、名残惜しさに五歩下がって振り返る。
      背中越しに見える手酌から広がる水が光を浴びて輝くのが眩しい。

      先ほど払い落したように見せかけた姉さんの長い栗色の髪をこっそり小指に巻き付ける。

      姉さんに惚れてるっス。
      姉さんが好きッス。

      口に出して、笑ってくれなくなったら辛いから『優しい慎ちゃん』に甘んじるおれは、
      慣れる甘酸っぱい想いに惑わされて、

      髪の毛一本ですら愛しいんスよ。姉さん。

      姉さんが酌を握りながら伸ばしたままの小指に絡まる赤い糸が見えたらいいんスけどね。
      俺じゃなかったらそんなの切ってしまうスけど。
      まだ、気づいていないなら。


      俺は髪の毛を撒きつけた小指に唇を付ける。

      そうしたらかわりに俺が糸を赤く染めあげて姉さんに繋げて。
      気付かせてあげるっスよ。
      おれが男だって事を。

      でもおれは姉さんを悲しませたくないから結局このもやもやした気持ちが解放されないんス。

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