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- 2025/5/24 14:13
- 第四章 こころってどこにあるの
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- 校庭に出られるのは、週に一度の「運動観察日」だけだった。
決められた歩数で歩き、決められた回数で体操をする。自由という言葉は、地面のどこにも落ちていなかった。
“ことは”は、その日もスケッチ帳を持ってきていた。
スニーカーのまま、日陰のベンチに腰をおろし、地面に咲いた名もなき草を描いている。
「絵ばっか描いてると、怒られるよ。」
ひかるが背後から声をかけた。
でも、彼女は振り向かず、むしろスケッチブックを少し持ち上げて見せた。
「怒られないよ。観察してるふり、してるから。」
その返事に、ひかるは肩の力が抜けた。なんだか、負けた気がした。
「心って、どこにあると思う?」
不意に“ことは”が尋ねた。
ひかるは空を見上げるふりをして考える。けれど、答えは降ってこなかった。
「ぼくには、わかんない。」
「わたしね、描いてるとね、胸のここが、“ふわっ”てなるの。」
“ことは”は手で自分の胸を軽く押さえた。
「“ふわっ”て?」とひかるが訊き返すと、彼女はうん、と小さくうなずいた。
「それが、“心”かもしれないって思ってる。」
「ふーん。」
ひかるは答えたけど、ほんとは少しだけ、くすぐったかった。
そのあと、ふたりは誰にも気づかれないように、同じベンチに並んで座った。
黙っていても、沈黙が怖くなかった。
“ことは”が何を見て、何を感じているのか、全部わかるわけじゃない。
でも、その距離を、近づこうとすること。
それが、“心”の始まりなのかもしれなかった。
- 校庭に出られるのは、週に一度の「運動観察日」だけだった。