のりマスターさんとモバ友になろう!
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- 2010/2/9 21:30
- 深夜の来訪者
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壊滅的に暇な冬の片町
24時を回ると、店は僕と風船の二人きりになった。
その風船はヒモの先に付いている重りで、空中で浮いて留まっていた。
その姿は、描かれている愛くるしい顔のイラストのせいで、カカシの様だった。
僕に話しかけて来る子供に見えた。
2時頃だっただろうか。
店の雰囲気に合わない、スーツ姿の真面目な男性が入って来た。
「すみません、当店は男性のみでは…」
「存じてますが、先日ウチの妹が…」
「あ…」
僕は思い出した。
10日程前だろうか。
忙しい週末の夜。
混んでいる店内で僕は一人の客に軽く絡まれていた。
彼女とは初対面。
しかも忙しかったので、余り話も出来ていなかった。
「ノリさん見えるって聞いたよ?見てよ」
そんな軽いノリで見るのは嫌だったが、根負けして軽く見る事にした。
彼女の横に確かに人がいた。
「知的障害をお持ちの方が…」
彼女は小さく叫び声をあげて、泣きじゃくった。
「姪っ子が先月…」
可愛がっていた姪っ子が先月亡くなり、みんな深い悲しみに包まれていたそうだ。
その子はダウン症だった。
「私はその子の父親です」
「そうですか…」
しばらく二人で話が続いた。
今、その子がどうしているか、
誰と居て、どんな顔をしているか、
何を考えているか…
その間、その子は父親の周りでじゃれていた。
風船が大きく揺れていた。
「不思議ですね」
「こんな事あるんですね」
そろそろ彼は帰ろうとしていた。
4時を回っていた。
「お嬢さん、寝付かれましたよ」
「本当ですか?」
あんなに大きく揺れていた風船が、ピクリとも動かなくなっていた。
僕は少しでも役に立てたのだろうか?
月に何人もこういった方が店に訪れる。
お店を辞められなかった理由の一つだった。