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    • 2013/2/19 2:38
    • 狼は独り哭く
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    •  車のライトがマンションの出入り口の前で止まった。
       マンションの向かいには木に囲まれた公園がある。
       もう真夜中だ。街灯はあるが、木の影に人が潜んでいようとは誰も思うまい。
       運転手側のドアが開いた。車の中に明かりがつく。運転してきた男以外に人はいない。白いワイシャツ、黒のスーツ、ネクタイはしていない。男がズボンのポケットから煙草を一本出し、くわえた。もう一度同じポケットに手を入れ、ライターを出す。
       情報通りだ。やるなら、今か。
       そう思った時には木の影から出て、男との距離をつめていた。
       男は、くわえた煙草に火をつけたところで、初めてこちらに気付いた。
      「こんばんは」
       こちらから愛想よく挨拶し、続けて、「では、さよなら」
       と、男の顎の下を右手で素早く真一文字に払った。払った手には、ナイフを持っていた。
       血が飛んだ。
       男の口が無言で開き、煙草が路面に火を散らして転がる。
       男は左手で喉を押さえ、もう一方の手をこちらに伸ばす。
       ぶくぶくぶくと、血の泡が左手から溢れる。
       伸びた手を払い、男の胸にナイフの柄の所まで深く突き刺した。心臓に、止めを刺した。
       一歩さがり、ナイフを抜いた。男の胸の真ん中から血が流れだし、どんどん赤く染める。ズボンも血で汚れてきている。
       男の体が前のめりに倒れた。
       ふう、と一息つくと、公園の木陰の方に身を隠した。その傍にリュックサックがある。それを開いた。
       返り血を浴びていた。素早く着ているトレーナーを脱いだ。
       リュックサックからタオルを出し、顔と首を手早く拭き、手についた血もできるだけ落とした。男の血をたっぷり吸ったナイフをそのタオルにくるむと、地面に置き、新しいトレーナーとズボンを出した。それらを着ると、ナイフをくるんだタオルと返り血のついたトレーナーをリュックサックに入れた。
       それを背負うと、その場から走り出した。
       リュックサックを背負ってジョギング、そんな自分の姿を想像して、つい笑い出しそうになった。
       遠くで救急車とパトカーのサイレンが聞こえた。

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