クロりんさんとモバ友になろう!
日記・サークル・友達・楽しみいっぱい!
-
- 2009/11/13 7:11
- 東方SS(7)
-
- コメント(0)
- 閲覧(7)
-
-
- (3)
始めた時間が遅かったせいか、彼との会話に夢中になりすぎて鋏のペースが遅くなったせいか。
散髪が終わるころには、空の色も透き通るような青色から、鮮やかな茜色に変わってしまっていた。
風が少しずつ冷たくなり、鈴虫や蟋蟀たちが、秋を感じさせる綺麗な声で鳴き始める。
彼の髪をさっと払い、切った髪を丁寧に落としていく。
散髪したとは言え、新聞紙の上にまとめてある髪は大した量もなく、彼の見た目もそう変わってはいない。
それもそうだ。切ったのは襟髪だけなのだから。
まだ軽く縛れる程度には伸びているが、これが元の髪型だそうなので、それ以上は切らなかったのだ。
「……こんなところかな。○○さん?散髪、終わりましたよ」
残った髪を落としきったところで、彼に声を掛ける。
表面上は、切り終えたことによる達成感から、満足そうに。
心中では、わたしがただの「イナバ」に戻る時間が来たことに胸を痛ませながら、彼に声を掛ける。
小さな箒で髪をまとめ、屑籠へ捨てる。
部屋に籠った空気を入れ替えようと襖を開けると、赤い陽光が部屋の中ほどまで伸びてきた。
後は片付けさえ済ませてしまえば、彼と二人で過ごしたこの大切な時間は、本当の終わりを迎えてしまうだろう。
「…………」
――無反応。
彼はわたしの言葉に、何の反応も返してはくれなかった。
「……○○さん?」
返事がないことを不思議に思い、再び彼の名を口にする。
部屋に吹きこんできた風が、わたしや彼の髪を揺らす。
「…………」
――無言。
再度の呼び掛けにも、何の反応を示さない彼。ちょっと寂しくなってきた。
ただ無為に、時間が経過していく。
- (3)