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- 2015/4/2 17:00
- 桜の下で巡り逢う①
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- 【土佐藩~中岡慎太郎】
空に浮かぶ薄い雲が少しずつ形を変えながら、東の方へと流れていく。点在する雲は寄り添い、離れ、時には消える。
「…はぁ…」
決して早くはない風の流れに乗り切れず、霧散していくそれをつい自分と重ね、深い深い溜め息が零れ落ちた。
俯いた視界に映るのは、緩く握った拳と皺の寄った袴、書いては丸めてを繰り返す失敗した文の山、これから認めるためのまっさらな白い紙。
鮮やかな色のない世界に、気分も鬱々としてくる。
そんな中、ひらりと視界に舞い降りた一片の桜。淡紅色の花弁は小指の先ほどの小さな物なのに、その彩りには存在感があった。
ふと顔を上げ窓の外を見ると、邸の庭先を、ちらちらと花が舞っている。
暖かな日差しを悦ぶように踊る様は、愛しいあの人を彷彿とさせるもので。
会合がうまくいかず沈んでいた気持ちが、ゆるりと上向いた。
庭に出て、桜の木を下から見上げると、眼に映る総てが鮮やかな色彩を放つ。
桜の花々、舞い散る花弁、しなやかな枝、浅葱色の空。太い幹にそっと触れると、景色はより鮮明に見える。
ふと、会合で言われた言葉を思い出した。
『君の眼には、何が映っているんだ』と、呆れたような顔をされたっけ。確かに、さっきまでの自分には何も見えていなかったのだと思い知る。
未熟な己は百も承知だ。それでも何とか、ただあのひとの幸せのために、必死に食らいついてきたけれど。
まだまだ足りない。こんなことじゃ、貴女の笑顔を護る未来には程遠い。
思わず握り締めた手を、風が優しく撫でる。
その暖かさに目を見張った。
――慎ちゃん
耳の奥で囁かれたような気がして、とくんと胸が高鳴る。
自分で還したくせに、逢いたいと強く想った。
この腕に抱く夢をみては、独りの夜明けに涙する。
そんな日々を、幾度も越えた。
振り向いても貴女は居ないし、空耳だと解っているのに、期待してしまう自分を自嘲する余裕すらなくて。
「…姉さん…」
誰にも聞こえぬほどの小さな声で、貴女を呼んだ。
- 【土佐藩~中岡慎太郎】