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- 2025/5/29 6:06
- わたしをわすれないで 日常編
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- 第一章 カーテン越しの朝
朝の光が、そっとカーテンを透かしていた。
窓の向こうではまだ、鳥たちが遠慮がちに鳴いている。
ことはは、ひかるの寝息を聞きながら目を覚ました。
ぎゅっと握ったままの手が、ほんの少し、あたたかい。
夜の間に夢を見ていたのか、少しだけまゆをひそめた顔。
それも、今はもう静かにほどけていた。
「おはようって、言うのがもったいないね」
ことははそう呟いて、また目を閉じた。
ひかるの肩に頭をあずけて、もう一度、眠るふりをする。
だって――朝になったら、今日が始まってしまう。
この時間が終わってしまうみたいで、少しだけこわかった。
でも、ひかるはちゃんと起きて、ことはの髪を撫でた。
「おなか、すいた?」って笑いながら。
その声が好きだった。声の中にある、"いつもどおり"が、好きだった。
キッチンの光。
冷蔵庫を開ける音。
「キャベツあったよ」
「わたし、たまご割るね」
そんなやりとりひとつひとつが、小さな宝物だった。
朝ごはんを作りながら、ふたりは何度も目を合わせた。
それは、"はなれたくない"っていう無言の合図。
言葉にしなくてもわかるものが、たしかにそこにあった。
そして、ことはは心のなかで、もう一度だけ、そっとつぶやいた。
「わたしとはなれないで」
それは約束じゃなくて、祈りだった。
これからの日々の中に、小さく溶けていく願い――
そっと くちびるのすきまで
きみのこえが おちてくる
あさのなか
すこし くすぐったいような
さみしいような
きのうの あいだに
ことばにしなかった なにかが
まだ このてに のこってる
つめたく なりきれずに
しずかに しずかに
とけてゆく
それを みていた
ぼくのこころが
なにを いちばん
まもりたかったのか
いま わかった きがした
- 第一章 カーテン越しの朝