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- 2025/5/26 8:58
- 第五章 おぼえているのは ぬくもり
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- 昼下がり。
洗濯物を干している途中、ふと風にまぎれて届いた声。
「…ことは」
振り向いても誰もいなかった。
だけど、胸の奥がざわめいた。
庭の隅で見つけた、ひとつの白い石。
誰かが名前を彫ったような、小さなキズ。
「ひか…る?」
声に出したとたん、頭の中がざわつく。
それは、よく知っている音の並びのはずだった。
でも、だれ?
夜。
子どもたちが眠ったあと、押入れの奥から落ちてきた箱。
中にはアルバムと、手紙が数通。
その一番上に、折れかけた文字でこう書かれていた。
「ことはへ。忘れても、また見つければいい。
ぼくは、何度でも名前を呼ぶよ。
君が“おかあさん”じゃなくなっても、ことはのままでいてほしい。」
差出人は「ひかる」
記憶は戻らない。
でも、「ひかる」という名前の響きが、胸の奥にやさしく残る。
それは悲しいのに、なぜか少し、あたたかかった。
冷たい夜風のなかで、ことはは静かに呟いた。
「…ありがとう、ひかる」
その言葉には、まだ曖昧な輪郭しなかった。
けれどその声だけは、深く深く、闇のなかで灯るように残っていた。
- 昼下がり。