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- 2025/5/26 8:45
- 第二章 消えてゆくノート
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- ことはの部屋の机の上には、古びたノートが置かれている。
ページのすみには、小さなイラストと、丸い字で書かれた名前。
「ひまり すきなたべもの:いちご」
「星奈 よるねるまえのうた:ちょうちょ」
ことははそのノートを見ながら、何度も声に出して読む。
「ひまり」
「星奈」
けれど、読み終えてページを閉じた瞬間に、どちらがどの子だったか、わからなくなる。
思い出そうとするほど、言葉がすべって消えていく。
冷蔵庫に貼った「やることメモ」も、今は「これを読んでるあなたへ」から始まっていた。
> 「あなたは ことは。お母さんです。」
「子どもは 三人。光葉、ひまり、星奈。」
「今日も あいさつをして、ぎゅっとしてあげてください。」
まるで、自分自身に書いた手紙のようだった。
それが、何よりの現実だった。
リビングの隅では、星奈がぬいぐるみを並べて、遊んでいる。
その様子を見ながら、ことはは胸の奥が、ひりひりするのを感じていた。
「おかあさん、またノート見てたの?」
光葉が、少しだけ不安そうにことはを見上げる。
「うん、見てたよ。光葉ちゃんのこと、ちゃんと書いてあるからね」
ことははそう言いながら、わらう。
光葉はにこっと笑って、そっとことはの手をにぎった。
「だいじょうぶ。わたしが、ずっと教えてあげるから」
その声が、胸に沁みた。
ことはは、何度も心の中で呟いた。
“わたしを、忘れないで”
でも、本当は――
“わたしが、わたしを忘れないように”
そう祈る日々が、続いていた。
- ことはの部屋の机の上には、古びたノートが置かれている。