(・、・ )さんとモバ友になろう!
日記・サークル・友達・楽しみいっぱい!
-
- 2025/5/26 8:42
- わたしをわすれないで 記憶編
-
- コメント(0)
- 閲覧(4)
-
-
- 第一章:まどろみの中の母
「おかあさん、ひこうき、つくったよ」
小さな手が、折り紙の飛行機をことはに差し出す。
ことはは目を細めて、それを受け取る。
「すごいねえ……」
優しい声。でも、その言葉のあとが続かない。
名前が、どうしても出てこなかった。
目の前の子どもは、何度も抱きしめて、何度もおやすみを言ったはずの子。
髪の毛のくせも、寝起きの機嫌の悪さも、ぜんぶ知っている。
なのに、名前だけが、霞のように抜けていく。
「えっと……なまえ……」
つぶやいた瞬間、子どもの顔が曇る。
でも、すぐににっこり笑って言った。
「わたし、光葉だよ」
ことはの胸の奥が、すこしだけ痛んだ。
名前を忘れるということが、どれほど残酷なのか、彼女はまだ言葉にできない。
けれど、光葉の声が、笑顔が、ことはを責めることはない。
子どもの手は、小さくて、あたたかい。
ことははその手を両手で包んだ。
「光葉ちゃん、か……そうだったね。ありがとう」
まどろみの中で交わされる、確かにあったはずの記憶。
けれど、それはもう一度眠れば、消えてしまうかもしれない。
そんな毎日が、静かに始まっていた。
- 第一章:まどろみの中の母