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- 2025/5/26 3:24
- 最終章 わたしをわすれないで
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- 静かに、閉じる音がした。
それは扉ではなく、ひとつの時間だった。
長くはなかった。
けれど、たしかにそこに“ふたり”はいた。
名前も記録も、もう残っていないのに。
ことはの中には、温度が残っていた。
* * *
「わたしを、わすれないで」
それは、ことばの形をしていたけれど
ほんとうは 言葉じゃなかった。
たとえば、指先に触れたぬくもり。
呼吸をそろえたときの、鼓動の静けさ。
「またね」でも「さよなら」でもない。
“わたしをわすれないで”は――
そのすべてを包む、祈りのような想いだった。
* * *
いつか、全てが消えてしまってもいい。
この記憶が、風になってどこかで残るなら。
その風が、だれかの胸にふれるなら。
きっとそれだけで、充分なんだ。
ことはは、空を見上げた。
だれもいないはずの空なのに――
そこに、
ふたりで見上げた色が、あった。
- 静かに、閉じる音がした。