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- 2025/5/26 3:12
- 第二章 境界のない空
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- 白く漂う霧の奥、
ことははゆっくりと歩いていた。
音も匂いも、時間の感覚さえもない。
ただ、静寂だけが身体にまとわりついて、
過去のすべてを遠ざけていくようだった。
けれど、ときおり。
足もとに、淡い波紋のような光が咲いた。
それは、誰かの記憶――あるいは、想いの残像。
「これは……」
ひかるくんの声だった気がする。
でも、はっきりと聞こえたわけじゃない。
ただ心が、それにふるえた。
その時、ことはは気づいた。
自分の中にある “空白” が、あまりにも不自然だと。
思い出せないことが多すぎる。
でも、"忘れてしまった"という感覚だけは確かに残っている。
この場所は、生と死の境ではない。
ここは、忘却と再生の間。
何かを失って、何かを待つ場所。
「……わたしは、ここで、何を待ってるの?」
問いかけても答えはなく、
風だけが頬をなでていった。
- 白く漂う霧の奥、