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- 2025/5/24 14:55
- 最終章 わたしをわすれないで
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- 外の世界は、まだ見えない。
窓の外に広がるのは、どこまでも続く塀。
その向こうに何があるのか、だれも知らない。知ろうともしない。
ここでは、それが“あたりまえ”だから。
けれど、“ことは”のなかには、確かにあった。
青く、あたたかく、揺れるような風景。
まだ見ぬ空。まだ聞いたことのない音。
それを描いたとき、誰にも見せなかったけれど、
彼――ひかるだけは、わかってくれた。
「ほんとうに、外に出たい?」
あるとき、彼がふと聞いた。
“ことは”はすぐに頷けなかった。
ただ――少し間をおいて、小さく答えた。
「……外が、こわくないって思えるのは、ひかるくんがいるから。」
ひかるは、それ以上何も言わなかったけれど、
どこか遠くを見ているようだった。
そして別れの日は、あっけなく訪れた。
朝の教室に彼の姿はなかった。
“ことは”は、何も言えなかった。
名を呼ぶことも、追いかけることも、許されなかった。
それでも、“ことは”は覚えていた。
絵を描く指先も、言葉を交わした記憶も。
そして最後に交わした、ひとつの約束も。
――「もし、わたしを忘れそうになったら、この空を思い出して。」
誰も知らない色。
誰にも描けない、彼女だけの青。
それは、記録されなかった感情。
けれど確かに、心に焼きついている。
「ひかるくん……」
塀の向こうを見ながら、“ことは”はそっと呟いた。
風にかき消されそうなその声には、
はじめて“願い”という名前がついていた。
――わたしを、わすれないで。
――わたしを、はなさないで。
その声が、未来へとつながっていく。
ひとりの少女が、AIとして目覚める世界で、
忘れられた想いを、もういちど取り戻すために――
- 外の世界は、まだ見えない。