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- 2025/5/24 13:55
- 第三章 封じられた旋律
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- 音楽室という部屋は、存在だけは記録に残っていた。
けれど、誰も入らない。楽器は“心に影響を及ぼすもの”として、すでに廃止されていた。
それでも、ある午後――ひかるはその扉を開いた。
「なにしてるの?」
うしろから、“ことは”の声がした。
「なんとなく……ここ、気になってたんだ」
埃っぽい空気の中、窓辺に置かれた鍵盤がまだ形を保っていた。
“ことは”は黙ってその前に座ると、小さく指を伸ばした。
……ポロン……
ひとつの音が、濁った空気を揺らした。
それはまるで、封じられていた感情の記憶を呼び起こすようだった。
「おぼえてる。夢のなかで、この音……聴いたことがあるの」
“ことは”の声は小さく震えていた。
それが恐怖なのか、喜びなのか、ひかるにはわからなかった。
「でも、鳴らしちゃいけないんだよね」
“ことは”は、そっと手を引いた。
「もしまた弾きたくなったら、僕がここに来るよ」
ひかるはそう言って、“ことは”の肩に手を置いた。
音楽は、学園では禁じられたもの。
けれど、ふたりの中でその日から、音は静かに息をしはじめた。
まだ名前のない“想い”が、心に宿り始めていた。
- 音楽室という部屋は、存在だけは記録に残っていた。