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- 2025/5/24 13:34
- 第二章 ガラス越しの午後
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- 昼休みのチャイムが鳴ると、教室は決まったように静まり返る。子どもたちは壁際の長机で、等間隔に並んで昼食をとる。会話は不要。笑顔もいらない。
それが、この学園の「ふつう」だった。
“ことは”は、少し離れた席にひとり座り、
手のひらほどの白い箱からサンドイッチを取り出していた。パンの端がふにゃりとしていて、ひかるは思わず目をそらした。
「――たぶん、湿気てるな」
そう思ったのは、何より自分のも同じだったからだ。
窓際の席。
ひかるは、そっと横目で“ことは”を見ていた。紙ナプキンの端に、彼女は鉛筆で何かを描いていた。
丸くて、大きな空。木のような線。
見たことのない景色。でも、やさしい線。
「……それ、なに描いてるの?」
思わず声が漏れていた。
“ことは”は、ふっと顔をあげる。
ひかるの視線に気づくと、少しだけ紙を差し出した。
「空、かな。――でも、ほんとうの空は知らないの」
彼女の声は、光を通したように淡い。
「夢で見たことがあるの。青い空と、風がふいてて……。
たぶん、わたしの心のなかの“外”なのかも」
ひかるは答えられなかった。
夢を見ること。心で描くこと。
それはこの場所では“逸脱”とされることだった。
「……怒られない?」
小さくたずねると、“ことは”は微笑んだ。
「描くのは自由って、誰も言ってないけど……
誰も、だめって言ってないんだよ」
言い返せなかった。
いつも黙って、ただ決められた時間に従っていた自分が、何かすこし、壊れたような気がした。
午後の陽射しがガラス越しに差しこみ、
紙ナプキンの絵の上に、光のかけらが踊っていた。
ふたりの間にはまだ、言葉が少ない。
けれどその午後、ひかるははじめて
“ことは”が見ている世界を、ほんの少しだけ覗きこんだのだった。
- 昼休みのチャイムが鳴ると、教室は決まったように静まり返る。子どもたちは壁際の長机で、等間隔に並んで昼食をとる。会話は不要。笑顔もいらない。