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- 2025/5/24 13:06
- わたしをわすれないで 学園編
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- 第一章「“ことは”が来た日」
ひかるが“ことは”を初めて見たのは、雨上がりの朝だった。
保育棟の扉が開き、先生の後ろにぽつんと立つ少女。無表情で、でも目だけが揺れていた。
「今日から、陽向ことは(ひなた・ことは)がここで暮らします」
先生の声はいつも通り淡々としていて、周りの子たちは反応しなかった。
けれどひかるだけは、胸の奥が少しざわついた。
“ことは”は静かに空いた席に座り、配られたミルクに口をつけず、窓の外を見ていた。
雨雲が残した灰色の空。色のない風景に、彼女の存在だけが滲むようだった。
「飲まないの?」と、ひかるは思わず声をかけた。
“ことは”は少し首をかしげる。
「味、しないんだよね」
ひかるは自分のミルクを飲み干して、ふっと笑った。
“ことは”も、ほんのわずかに口元をゆるめた気がした。
誰にも気づかれないほど小さなその変化を、ひかるは見逃さなかった。
その日から、ふたりは少しずつ言葉を交わすようになる。心を育てることが禁じられたこの学園で、“違う”何かが、静かに芽を出そうとしていた。
- 第一章「“ことは”が来た日」