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- 2025/5/21 11:29
- 第六章 カレイドスコープの向こう側
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- あの店の扉が、ふたたび音もなく開いた。
「ことは」は迷わず足を踏み入れる。光の粒子が舞い、店内は夢のようにぼんやりと揺れていた。
カウンターの奥にいた主は、うっすらと微笑みながら問いかけた。
「ようこそ。今日は、なにを探しに?」
「失くした記憶を――取り戻しに」
「ことは」はまっすぐに言った。
主は、棚からひとつの鏡を差し出す。
古びた枠に、かすかに虹色をにじませる、小さな万華鏡のような鏡。
「この向こうに、あなたの“なにか”が眠っています。けれど、見つけるには代価が要る。ひとつだけ、あなたの中から差し出すものを決めてください」
ことはは迷った。
けれど、胸の奥で囁く誰かの声が背中を押した。
「わたし、ひとりじゃなかった。だから――わたしの孤独を、渡します」
差し出した瞬間、鏡が淡く光り、ことはの瞳の奥に無数の記憶が流れ込んできた。
失われた手のぬくもり。
優しい声。
あのとき、確かにそばにいた「ひかるくん」の存在。
ぽろりと、涙がこぼれた。
「ただいま」
小さくつぶやくように、「ことは」は言った。
そして、鏡の向こうに微かに映る、誰かの姿に向かって――
「わたしを、わすれないで」
鏡の中で、カレイドスコープのように砕けた光がひとつに重なっていく。
世界は確かに、つながっていた。
- あの店の扉が、ふたたび音もなく開いた。