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- 2025/5/21 10:58
- 第四章 忘却の対価
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- その店は、街の片隅、地図にものらない路地の先にある。
扉の前に立つと、不思議と胸が騒いだ。
懐かしさとも、怖さとも違う感情。けれど、足は止まらなかった。
中は薄暗く、静かな音楽が流れている。
瓶が並んだ棚、無数の記憶が詰まったガラスの中身は、どれも少しずつ違う色をしていた。
カウンターの奥にいたのは、白い服を着た女性――わたしは、「ことは」と呼びたい気がした。
その瞳は、すべてを見透かすような透明さをしていた。
「いらっしゃい。……記憶、探しに来たの?」
頷くと、「ことは」はゆっくり手を差し出す。
「何を取り戻したいのか、まだわかってないなら――こちらをどうぞ」
そう言って渡された小瓶。中に満ちていたのは、淡い金色の液体。
わたしの心が、かすかに震えた。
「これ、わたしの……?」
「交換したものよ。あなたが忘れる代わりに手に入れた“何か”の、形。」
それは希望だったのか、それとも――。
瓶を見つめるうちに、わたしはふと問いかけていた。
「わたし、誰を……忘れたの?」
「ことは」は答えず、ただ優しく微笑んだ。
まるで、その答えを急いではいけないと告げるように。
静かな空気が、記憶のように胸を満たしていく。
わたしはまだ知らない。どんな痛みがそこにあるのかを。
けれど、知りたいと思った。
もう一度、大切だった何かを――たとえ、傷つくとしても。
- その店は、街の片隅、地図にものらない路地の先にある。