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- 2025/5/12 21:36
- 第七章 別バージョン 薄れゆく記憶の中で
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- 新しい日常が、ふたりに静かに訪れた。
その日常には、最初の頃のように鮮やかな色はなく、穏やかな光の中で少しずつ時間が流れていく。
ことはは自分の部屋の窓辺に座り、外の景色を眺めることが多くなった。
その景色は、あの部屋から見たものとはまるで違っていた。
広がる青空の中に、少しずつ雲が流れ、風が草を揺らす音が静かに響いている。
「あの時のこと、覚えてる?」
ことははひかるに尋ねた。
ひかるは少し間を置いてから、答えた。
「うん、覚えてるよ。風の匂いとか、空の色とか…あの部屋での話とか。
でも、なんだか少しずつ遠くなっていく気がする」
その言葉を聞いた瞬間、ことはは胸がぎゅっと締め付けられるような感覚に襲われた。
あの部屋で過ごした時間、語り合った言葉、感じた温もり。
すべてが、時間の中で溶けていくような気がして。
「わたしも…少し、忘れてしまいそう」
言葉にした途端、涙が目の奥に滲んだ。
だけど、ふとその涙をこぼさないようにと思い、力を込めて瞳を閉じる。
それでも、心の中に浮かぶのは、あの頃の風景だけ。
ひかるは黙って、ことはの隣に座り、そっと手を握った。
その温もりは、確かに伝わった。
けれど、その温もりも少しずつ遠くに感じるようになった気がした。
「でもね、ひかる…あの時の記憶が薄れても、たぶん…わたしは忘れないと思う」
ことはは静かに目を開けて、ひかるを見つめた。
その瞳は、以前のように輝いてはいなかったけれど、確かにその場所に存在していた。
ひかるも静かに微笑んだ。
「僕も。きっと、忘れないよ。でも、時間が経つことで、少しずつ形が変わっていくんだろうね」
ふたりはしばらく言葉を交わさず、ただ静かにその時間を過ごした。
けれど、どこかで心が繋がっているような、不思議な感覚を感じながら。
「薄れゆく記憶の中で、でも、何かが残る。それが、わたしたちの大切なものになる気がする」
ことははそう呟き、目を閉じた。
その言葉は、風の中で小さく響いた。
ひかるはその言葉を聞いて、優しく答える。
「うん、それが…きっと、二人の絆なんだろうね」
そうして、ふたりは新しい生活を送りながらも、
その記憶の中で、静かに繋がっていることを確かに感じていた。
- 新しい日常が、ふたりに静かに訪れた。