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    • 2010/10/3 14:12
    • 序章 1
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    •  8月31日、夏休み最終日。

      蝉の鳴き声が至る所から響き、灼熱の太陽は容赦なく照りつける、残暑厳しい茹だる午後。
       次々と吹き出てくる額の汗を拭いながら、足取り重く学校の正面玄関を目指す。

       グラウンドの黄色い砂の上に落ちた濃い影を見やって、一瞬ぐらりと目眩がした。

       漸く屋根の下へたどり着き、日陰の中に入ると、先程とは打って変わって涼しくなった。いや、暑い。暑いが、背中を焦がす直射日光から遮断されただけでも随分と楽になるものだ。

       玄関脇の事務室を通り過ぎ、職員室の扉には目もくれず水道の前に立つ。行儀よく並んだ銀色の蛇口のうち、一番近い蛇口を捻ると、溢れ出してくる温い水にかぶりついた。何、どうせ夏休みである。誰かに見られる恐れなど無いのだから、多少行儀悪くても良いのである。
      水が段々と冷えてきて気持ち良い。飲みたいだけ飲むと、思い切ってそのまま顔を洗った。大胆な水音が響く。制服に水がかかったが、何分この陽気なのですぐに乾くだろう。

       水から顔を上げると、大きく一息ついた。やっと生きた心地がする。崇高なる太陽閣下には、容赦という言葉を覚えて欲しいものである。

       袖口で顔を拭い、振り返ると職員室の扉は開いていた。挨拶ぐらいはせねばなるまいと中を覗き込んだが、窓から風が柔らかく吹いて白いカーテンを揺らすばかりで、驚いた事に誰もいない。大変のどかである。
       目をしばたいてじっとその様子に見入ったが、「ああ、今は夏休みだったのだ」と思い出す。夏休みなら、生徒の監督に出勤した僅かな教員が職員室から出払っていたとしても、おかしくないだろう。
       頭を引っ込め、歩き出す。


       階段を登る間も、物音と言えば蝉の鳴き声と自分の足音ぐらいなものである。誰にも擦れ違わないなどというのは、普段なら有り得ない。有り得ないを通り越して、少し気味が悪くなった。

       ホームルームの白い引き戸を独特のがらりという音と共に開く。やはり、誰もいない。スピーカーの上に取り付けられた丸いアナログ時計の秒針が時を刻む音が、騒々しい鳴き声に混じって聞こえるようだ。

       黙って教室に入り、自分の席に向かう。席はまだ名簿順だ。整然と並んだベニヤ板の机と椅子たちの間を縫うように歩いていくと、ふと気付いた。窓際から3列目、後ろから二番目の席の横に黒い学生鞄がかかっている。


      誰か、登校している。

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