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    • 2010/5/31 22:39
    • 白い日と黒い日
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    • だから、あれほど早く出た方が良いと云ったのに…


      誰にともなく向けた愚痴が、つい口をついて出てしまうほど彼は苛立っていた


      この辺りは、日没から霧が深く立ち込めることで有名だったのだ


      がさつな手つきでエンジンキーを回し、セカンドギアで車を発進させた
      タイヤのスキール音が、まるで悲鳴のように辺りの静寂を切り裂いた

      とにかく一刻も早くこの場から立ち去りたい
      それ以上に、今日はどうしても行かなければならない所があった


      ─────彼には妻がいたが、彼の本当の仕事だけは告げずにいた

      いつものように家に帰ると決まって彼は『移民が日毎増えていくせいか、ボクの仕事は一向に減りそうもないよ』
      そう言っておどけて見せるのだ───────


      フォグランプに浮かび上がる霧の塊が、彼を乗せた車目掛けて迫るたびに、反射的に身を反らした


      アクセルペダルを踏みしめる足の力を緩めることなく、彼は家へとただ急いだ



      間もなく彼も父親となるのだ


      それまでの葛藤…
      妻にさえ告げていない彼の仕事の事が彼の枷となっていた
      …私が人の親になるなど、許されてよいのだろうか?

      今まさに人の親となろうとしているその時でさえ、答えは出ないままだった



      その時、彼の視界に小さな人影が飛び込んできた

      キャンプから逃げ延びた移民の親子であると彼はすぐに気付いた
      と同時にハンドルを鋭く切り返し、その親子を避けようとした



      この国では、移民を人としてではなく、労働力として迎え入れていた
      彼の仕事は、労働力にならない移民の処分であった



      移民の親子を無事に避けることのできた彼の車は、道を外れ渓谷に向かって飛び出していた


      妻の名を呟き、まだ見ぬ我が子が無事に生を賜ることを祈り、これまでの彼の仕事の元に犠牲となった移民たちへの懺悔の念抱きながら彼は深い闇へ飲み込まれていった

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