日記・サークル・友達・楽しみいっぱい!
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- 2011/8/13 1:01
- 大樹の木陰。
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道を歩いてる男がいました
目的もなくただ真っ直ぐに
道を歩いていました
しばらく歩いて行くと
右腕の無い人がいました
愛する人に手紙が書けずに
困っていたので
男は右腕をあげました
「左手があれば充分さ」
男は笑って言いました
また
しばらく歩いて行くと
今度は左腕の無い人がいました
たくさんの荷物が持てなくて
困っていたので
男は左腕をあげました
「足さえあればいいさ」
男は笑って言いました
また
しばらく歩いて行くと
今度は耳の無い人がいました
美しい鳥のさえずりが聞けずに
困っていたので
男は両耳をあげました
「静かになるし気楽なもんだ」
男は笑って言いました
また
しばらく歩いて行くと
今度は口の無い人がいました
恋人にプロポーズが出来ずに
困っていたので
男は口をあげました
『話す相手がいる訳じゃない』
男はもう笑えませんでした
また
しばらく歩いて行くと
今度は目の無い人がいました
久々に会う家族の顔が見えず
困っていたので
男は両目をあげました
『成長した子供を見てやれよ』
男のいる世界は真っ暗になって
しまいました
また
しばらく歩いて行くと
今度は足の無い人がいました
遠く離れた故郷に帰れずに
困っていたので
男は両足をあげました
遂に歩けなくもなってしまった男は
『それもいいさ』と思いました
何も掴めなくなり
何も聞こえなくなり
何も話せなくなり
何も見えなくなり
何処へも向かえなくなり
仕方なく男は眠りました
ぐう ぐう ムニャムニャ
ぐう ぐう ムニャムニャ
男は長い間眠りました
どのくらい寝たでしょう
たくさんの季節が巡ったある日
太陽の暖かさで目が覚めました
風でそよぐ草が足を撫で
両腕に羽を休む鳥がさえずり
葉のざわめく音を響かせ
大地を覆う色鮮やかな花が視界に溢れるように拡がっていました
彼が歩きながらあげた全ては
ちゃあんとそこにありました
歩けなくなった足は代わりに
大地にしっかと根を張り
男の咲かせる花は虫たちを呼び
男の作る実は動物の腹を満たし
男の作る木陰に人々が集いました
男はとてもとても幸せそうに
笑っていました