☆☆椛☆☆さんとモバ友になろう!
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- 2011/1/8 20:06
- 最終章…~epilogue~
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- そっか…
冬のアーケード街
雑踏の中で
ふいに昔の恋人に出逢った
遠くから目敏くぼくを見つけて
ぱっと表情を輝かせた彼女
近視眼のぼくは
最初、誰だかわからずに
不意撃ちを食らって
その場に立ちすくむ
目の前に向き合って微笑むまで
本物の彼女だとは
どうしても信じられなくて
『映画を観にゆくところなの…』
屈託なく彼女は話しかける
『ひとりで、かい…?』
咽元まで出かかった問いを
ぼくは危うく飲み下す
『あなたは…?』
『うん。雑誌を探しに本屋にね…』
言葉が意志とは関わりなしに
勝手に対応をしはじめる
夢遊病のような
奇妙な不安定感
あの頃よりすこし背が伸びた
あゝ踵の高い靴をはいている
あれほど嫌っていた化粧も
かなり濃い目にするようになった
変わってしまったんだね
ほんとうに…
もうしっかり大人の顔をしてる
彼女は以前の彼女じゃない
それはよくわかっていたはずなのに
いたたまれない気がするのは何故…?
なつかしくも苦い思い出と
もしこうして出逢ったら
言うはずの科白が
出口を求めて頭の中を駆け回る
けれど…
口をついて出てきたのは
本当に他愛のない戯言ばかり
すこしでも予測できた出逢いなら
それなりの気の効いた言葉が吐けるのに
二人の間には
別々に過ごした二年の歳月
見えない記憶の影が
苛立ちを呼び起こす
けれど…
それもほんのすこしの間だけ
別れ際の鮮やかさは
あの時と同じ
ぼくが言葉を継ぐのを軽く拒んで
じゃあねと右手を振って
遠ざかってゆく彼女
『あなたはすこしも変らないわ…』
その声が耳の底に木霊する
できたらゆっくり話したいだなんて
思った自分を浅ましく感じて
ぼくも流れ去る人波に身をまかせる
一度だけ堪えきれずに
振り向いた弱さ
何を告げようとしてかは
わからずに
したたかな陽気さを
身にまとった彼女
あの頃のまま
ひ弱な少年のぼく
心に動悸と失望が置き去られて
何もかもが終わったことを思い知る
頭上には冬の陽射しを受けた
イミテーションのステンドグラス
再会への淡い期待が砕け散り
ぼくはその残骸を踏んで歩いてゆく
もう二度と振り返ることはないのだと
苦い確信をかみしめて…
- そっか…