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    • 2013/3/17 4:49
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    • 「環、お前はこれからどうするんだ」

      初老の男性が訊ねる。

      窓の外は薄暗く、分厚い雲が空を覆っているのが間接的にもわかった。
      先程までは遠慮がちにしとしとと広い感覚で窓を弱く叩いていた雨は姿を変え、風と共にそれをがたがたと揺らすほどにまでなっている。環と呼ばれた青年がそれらの様をぼうっと、明日の飛行機は無事に飛ぶだろうかと考えながら眺めていたときに投げ掛けられた問いだった。

      「明日、日本へ発ちます」
      「明日か、通りで荷物を綺麗に整理していると思ったよ、相談も無しとは水臭いな」

      男性がふぅ、と息を長く吐くと、紫煙が空気に飲み込まれて霧散した。今まで散々と仕事と暖炉と料理以外でこんなにおいなど嗅ぎたくないと突っぱねたものだが、それも今夜で納め物だ。そう思うのは少し寂しさを煽ると言うものだが、門出の裏側に寂寥は付き物だと、環は薄情な自らを詫びながら、次の煙草に初めて積極的に火を点けてやる。

      「おお、珍しい事もあるもんだ。…しかし、何をしに遥々日本まで?」
      「ええ、妹を探すついでに、なかなかの大手からあっちでの仕事を任されたもんで」
      「…妹、妹ねえ。もう飛行機まで取ってあるくらいだ、引き留めるつもりは毛頭ないけどよ、そいつが日本に居るってことはお前ら別れて何年になる?」

      男性が言わんとする事は音にならなくとも分かる。環はしかし、弱点を疲れたかのように一瞬表情を歪め、苦笑を湛えた。

      「12年になります」
      「そりゃあお前ですら本人か判別が怪しいところじゃないか」
      「ええ、でも、約束をしたんですよ」

      覚えていない、この否定の一言はとても耳に痛いもので、その程度は男性の複雑な表情からも窺い知る事ができた。しかしその心は一瞬にして、次の環の言葉に向く。
      今度は男性が環を窺うかのような声で、約束?とオウムを返した。

      「両親に、いつかこの子を迎えに来てあげて、と言われました。あいつもそれを聞いていたから、待っているかもしれない。」

      語気を強くすれば、それ以上男性が言及してくる様子も無い。この現実主義者のせんせいは、十中八九この夢見がちの愚かな教え子に呆れているのだろう。
      環はその後言葉を続けることもなく、雨風が窓を叩き散らす部屋を後にする。


      翌日の飛行機は、環とイタリアの地を完全に決別させた。


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