栗豆まゆむさんとモバ友になろう!
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- 2013/5/14 12:53
- ウィザードは王道ラブなんだよ
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固く閉じた瞳
止まった鼓動
冷たい体
これがお伽話なら、王子様がキスをすれば、お姫様は目を覚ますのだろう。
けれどこれはお伽話ではないし、自分は王子様ではない。…彼女は確かに、お姫様と呼ぶに相応しいと思うが。
眠り姫を抱く腕は、王子様でなく魔法使いのもの。
魔法使いなら、彼女に魔法をかけられるだろう──
【 コヨミ 】
カタンッという小さな物音で、ハッと目を覚ました輪島は、自分が魔法石の加工中に眠っていたことに気づいた。
(やれやれ…)
眠気覚ましのコーヒーを淹れようと、作業場から出る。
するとそこには、上着を着た晴人がいた。
「晴人」
支度を終えたコヨミが晴人の傍へと来る。
「こんな時間に、どこか行くのか」
「ちょっと、散歩。すぐ戻るよ」
輪島に答えた晴人は、コヨミの腕を優しく引いた。
「気をつけてな」
出て行く2人の背中に声を掛けると、輪島は窓の方を見た。
「ああ…」
そして納得する。
「今夜は月が綺麗だものなぁ」
晴人は時折コヨミを連れ出す。
時間は関係なく。
朝に、
昼に、
夜に。
それは、晴人とコヨミの時間。
2人だけの時間。
しばらく歩くと、小さなベンチを見つけた。
晴人はそこにコヨミを座らせると、自分はコヨミの前にしゃがむ。
「…魔法は解けかかっていませんか?お姫様」
おどけた口調で訊ねる晴人に
「ええ、大丈夫よ」
コヨミも笑って答える。
「晴人がいつも、傍にいてくれるもの」
「これからも、傍にいるよ」
擬似的にでも、生きていてほしいと願うから。
「俺が、最後の希望だから」
その言葉は、自分自身に言い聞かせるように。
穏やかに見つめ合う2人を、月が照らしていた。
まつげが震え、ゆっくり瞼が開いていく。
鼓動が止まったままでも
体が冷たいままでも
目を覚ました彼女。
守り抜こうと思った。
この先に、何があろうとも。
君は
俺の最初の希望──
fin.
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