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- 2012/3/22 0:07
- ブラックアウト外伝SS
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- ■月見酒、独りの夜
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「誰を待ってるんですか?」
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彼は我輩にそういった。
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今宵の月は満月。風は微風を流し、澄み渡る大気はその輝きを煌々と醸す。
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「もう会うことのできない、“奴”だ」
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これ以上の説明は出来ない。
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それを語るにはこの夜は短すぎるし、それを語るには彼はまだ若すぎたから。
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「それは、」
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彼はいう。
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「……織田、組長のことですか?」
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寂しさや悔しさ、そして静かな怒りを秘めながら彼は言葉を紡いだ。
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「……そうかも、な」
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我輩は彼の問いを無碍(むげ)に答えながら、揺れる杯(さかづき)を口にする。
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新撰組3番隊の隊士、カズマ。
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信長の部下だった青年。
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「それは……組長の分ですか?」
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我輩の隣に置かれる杯を指さす。
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我輩は少しの沈黙の後、静かに頷いた。
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「隣に、座っても?」
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その言葉は、彼なりに勇気を絞り出したものだろう。
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酷く、震えていた。
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「駄目だ」
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(お前には、まだ早い)
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未だ死線を越えず、停滞している人間には、その席は重すぎる。
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(まあ、それは……)
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「我輩も、同じか……」
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自問自答の思いにふっ、と笑い捨てる。
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我輩もまた、“信長の死を”未だ越えられずにいるのだから。
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「柳生組長?」
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「いつか、我輩と献杯(けんぱい)するか」
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未成年のカズマに、まだ酒はすすめられない。
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でも、信長を想う気持ちが同じであれば、そこに上下関係などない。
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「はいっ!」
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弾む声で返すと、彼は我輩の元を去る。
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遠く消える駆け足の音を聞きながら、我輩はまた月を見上げ杯(さかづき)を掲げた。
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(残念ながら)
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「今日もまた、独りだ……信長」
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もういない奴のことを思い、我輩は杯を口にした。
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- ■月見酒、独りの夜