シヴァさんとモバ友になろう!
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- 2010/2/2 18:08
- イカロス
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- 男がいた。
ただただ太陽をみていた。
飽きもせず目が焼け付くほどにみつめた。
心の中には憧憬と焦燥。
ある日、男は翔ぶと誓った。
暖かな光に近づきたい一心だった。
あらゆる苦難も恐れはしなかった。
ありあまる情熱で蝋を溶かし、大きな翼をつくる。
人々は愚かだと嗤ったが、どんな嘲笑も男には聞こえなかった。
歌うように空に吹く風ばかり聴いていたから。
空の歌声は蝋の翼を固めた。
大きく、強く、しなやかに。
これで何処へだって翔んでゆける、想いのままだ。
そう思った。
信じて疑わなかった。
そして一番高い丘の頂上から、男は飛んだ。
背なにある翼は気流を掴み、舞い上がった。
何にも代えがたい最高の気分だった。
喜びをはためかせ、理不尽に対する怒りすら力に、哀しみは気にとめず、存在しうる楽しさがすべてだった。
男は飛んだ。
朝も昼も夜も。
晴れも雨も雪も。
まるで踊るように、歌うように。
満月の光を浴び、雷鞭をかすめ、七色の虹をすべり、積乱雲の上へ。
三千の日と夜をこえた。
いつしか、なぜ飛ぶのかを考えるようになった。
目指した太陽は手が届きそうなほど大きくなったが、より遠くなった気がした。
ふとうつむくと、あまりの空の深さに心が震えた。
近づいたぶんの光熱は、自分自身の情熱の業火。
目は真っ赤に、体は真っ黒に焼け焦げた。
大きく、強く、しなやかだった蝋の翼は溶けてしまって、慈悲もなく風は滅びの歌を奏でた。
虚しさがつきまとい、痛みしか感じなくなっていた。
それでも、男は飛んだ。
自分を愚かだと笑うのも飽きた。
絶望の甘さに浸るのも欲だ。
翔ぶと誓った。
それだけで十分だった。
すべて心がきめることだ。まだ、まだ翔んでゆける、想いのままだ。
そう思った。
信じたなら疑うな。
- 男がいた。