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- 2011/9/29 19:26
- 『初恋の叶え方』プロローグ③
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「そう。なら、風邪を引かない内に待合室に入りましょ」
「中は……、嫌だ。皆、なんだか怖い……」
親戚達が葬儀会場の待合室の隅の方で深刻そうに話し込んでいたことを征司は知っている。征司は西夫妻と共に少し離れた所に居たが、時折聞こえ来る言い争うような声が怖かった。子どもながらに、自分の話をされている事が分かっていたからだ。
不安がる征司の手を西夫人が「大丈夫よ」とギュッと力強く握ってくれた。
征司の言葉に大方予想がついたのか、悠紀が待合室の方へと視線を向け「あぁ……」と呟いた。
今も小さくではあるが言い争うような声が聞こえて来る。
「ねぇ、君……」
「……征司。六芦征司」
「せーじ君はさ、親戚の人と暮らしたい?」
正月やお盆の時期になると母方の実家に親戚一同が集まっていたが、征司が小学二年生の頃に祖父が亡くなり、跡継ぎの長男夫妻の代になってからはその集まりもなくなった。それ以降は親戚とも疎遠になっていた。父方の親戚は遠方に居る為に元々疎遠だ。
彼らと共に暮らすなら、征司は引っ越しをしなくてはならないだろう。両親との思い出の残る家から離れるのは絶対に嫌だった。
(だってもう、お父さんとお母さんに会えない……)
もう匂いも、温もりも永遠に感じる事が出来ない。
だって彼らは死んでしまったのだから―――
心の中で口にすると、一気に現実が押し寄せて来る。
辛くて苦しくて、不安で堪らない。心の底から大声で叫びたくなる。
震える唇を開いて、征司は答えた。
「家から……離れたくない。岳人やおばさん達とも離れたくない。あの人達の所には行きたくない……!」
きっと今までと同じ生活は送れないと分かっていた。家に残っても、親戚の誰かについて行っても。
それでも、あの家から離れるのだけは嫌だった。