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- 2011/9/28 20:09
- 『初恋の叶え方』プロローグ②
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そして迎えた火葬の日。
征司は慌ただしく過ぎていった今日までの事を、余り覚えていない。
今、火葬場の煙突から出ている煙も、葬儀の時に棺の中で眠る両親の姿も、現実の物だとは思えなかった。
「ねぇ君。そんな所で突っ立ってると、雪だるまになっちゃうわよ?」
空へと続く煙を見つめて、どれくらい時間が経ったのだろうか。
征司は聞こえて来た若い女性の声にハッと我に反り、声の聞こえて来た後方を振り返った。
「誰……?」
振り返った先に立っていたのは、全く見覚えのない女性だった。
うっすらと雪の積もったピンク色の傘を差した、二十代前半の女性。ワンピースタイプの喪服に上に、ファー付きの黒いロングコートを羽織っている。
緩やかに巻かれたセミロングの茶色い髪。メイクは控え目だが、どこか華やかさを感じさせる容姿だった。
「あぁ……、そうよね。ごめんね。君に会ったのはまだ赤ちゃんの頃だったから覚えていないわよね。私は悠紀(ゆうき)。野々宮(ののみや)悠紀。私の亡くなった父が、君の御両親の専門学校時代の先生だったの。卒業後も交流があって、娘の私も君の事は父からも御両親からも聞いて知っていたわ。丁度君と同じ歳の頃に、赤ん坊だった貴方にも会ったことがあるのよ」
征司の前で膝を付いた悠紀が、優しい手付きで征司の肩や頭に薄く降り積もった雪を払ってくれる。
征司は返事や相槌を打つ事もせず、悠紀の話を黙って聞いていた。
悠紀もそんな征司を気にする事なく、話を続けた。
「いつから外に居たの? せっかくのスーツが台無しになるじゃない。それとも、本当に雪だるまになるつもりだったのかしら?」
悠紀の言葉に小さく首を横に振る。ただ煙を見つめていたら、いつの間にか肩に雪が積もってしまっていただけだ。
今日着ている新品のスーツも、元々は来月の小学校の卒業式用に両親がイタリアのお土産に買って来てくれたものだった。
事故後に家に届けられた土産の中には、黒いスーツに合わせたワインレッドのネクタイも入っていたが、今征司が絞めているのは西夫人が用意してくれた葬儀用の黒いネクタイだ。
来る祝い事の為に両親に買って貰ったスーツを、両親の葬儀で袖を通す事になるとは思いもしなかった。