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- 2013/7/27 4:47
- あの夕日の砂浜でもう一度
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- 走っていた、僕は。
濡れた砂に沈み込む足を、まとわりつく水ごと力いっぱい振りあげて走っていた。
真っ赤な空が空気を燃やして、濡れた肌が瞬く間に焦げる。
口の中を通って肺に行ったはずの酸素が、ただ何をすることもなくそのまま口から出て行って僕を窒息させる。
ただただ生きることに一生懸命だった。
息をするのも、瞬きをすることも、僕は自力で、自分の意志で行なっていた。
そうでないと生きてる意味が無いと思っていたんだ。
一瞬一瞬に全てのエネルギーを費やしていた。
多分、僕が追いかけていた君も、あの時は同じだったろうと思う。
夕日に照らされてキラキラと輝く笑顔が、その通りだと言っていた。
君はとにかく眩しくて、その光にまみれて揺れる輪郭を捉えようと、僕は必至に目を細めていたんだ。
そしていつの間にか目を瞑っていた。
瞼を通して見る光は真っ赤に輝いていた。
空と同じ色だったから、気づかなかったよ。
君の手を握ろうと伸ばした腕が何も掴まなかったのは、全部僕のせいだったってことを。
『ありゃまっ、アイス! こぼしてる! きみ~食べ方ヘタクソだね~』
電子音。
「なんで僕の手を取ってくれなかったんだろうなぁ」
暗闇を長方形の光がかき分けて、男の顔を浮かび上がらせる。
吹き出物だらけの脂ぎった皮膚がテカテカした光を反射させる。
モゴモゴともたつく口がボトボト独り言をこぼす傍ら、指が痙攣するような動きでスイッチを押す。
「ゆうちゃん、ご飯「うっせババァ! 今いいとこなんだから邪魔すんじゃねえよっ!」
唾液の飛沫が、光の中を舞って画面を濡らす。
『へへへ、きたな~い。っ!』
「君はもがき苦しむ僕を見ていたのだろうか。僕は……君と一緒に走っていると思ったのに」
『ちょっと、なになに、その手で、何するつもりなのさ! やめて、やめてってば! やめて~! やあん!』
「君はただ僕から逃げるために走っていたのか。僕から……ただ逃げるために……」
『そう簡単に捕まるあたしじゃないよ~! アハハ! こっちまでおいで~』
「でもそれならば……その笑顔は一体……」
「ゆうちゃん、ピコピコばっかりしてないで、早く出て来なさい!」
「一体何なのだ。一体……」
- 走っていた、僕は。