とらのすけさんとモバ友になろう!
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- 2012/12/10 10:53
- 時のないホテル vol.2 remake
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- (vol.1から)
ボーイに導かれ
雛壇のように艶やかな
階段をあがる
深紅の絨毯を
踏みしめながら
館内のゆったりした流れに
心の時計を合わせてゆく
ふりかえると
先ほどのロビーが
眼下に広がっている
まるで時間の止まった
ドールハウスのように
それは琥珀色に溶け込み
フィギア役の客たちは
物語の一場面をそれぞれ
しっとりと演じている
つかの間の滞在
レノンとヨーコの
お気に入りは
ここの202号室だった
木製のドアを
ボーイがやさしく開ける
静けさをたたえていた
部屋に
白熱灯のあたたかい
あかりがともる
西欧サイズの空間は
高原の滞在に相応で
長期滞在用の調度品が
ゆるやかな旅を語りかけ
旅人をその気にさせる
浴室のバスタブは
猫足と呼ばれる
古い映画に登場する
脚のついたそれで
泡の立った浴槽に
つかりながら
シャンパンでも
かたむけようか などと
その映画の
主人公にでもなった
錯覚を起こさせてくれる
備え付けの便箋を使って
誰かに便りでもと
中庭に向かった机に
むかってみるが
筆がすすむはずもない
木枠の窓を左右に開くと
高原を渡る冷たい風が
頬をかすめ
真紅に燃える
ひとひらのもみじが
ベッドの上に
舞いおりてきた
風が
変わった
晩秋の陽射しは
ことのほか早足で
まるで家路を急ぐ
子供のように
稜線の向こう側に
まわってゆく
ロビーの暖炉のまわりに
人が集まりだした
夕食の時間が
近づいている
長期滞在中の老夫婦
到着したばかりの旅人
晩餐を楽しみに
足を運んでくる別荘族
ドレスコードは
特に定められていないが
常連はごく自然に
上着を着用している
そうしないと
かえって落ち着かず
せっかくの夕食を自ら
台無しにしてしまう
ことをみな知っている
メインダイニングは
今夜も予約で満席だろう
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